「病床転換型居住系施設」に反対する

                             福岡・「障害者」解放をめざす会

 

 「病棟転換型居住系施設」構想を打ち出した「検討会報告書」

 

 

 

 「病棟転換型居住系施設」は、精神科病棟の一部をグループホームなどに「転換」して、「精神障害者」や「認知症」患者の「住まい」と見なすことを認めるというものである。それは、「地域移行の推進」という看板を掲げながら、しかし実際には、「精神障害者」を精神病院からは出してもその敷地内からは死ぬまで出さないというものであり、隔離・収容・抹殺政策の焼き直し的強化に他ならない。併せて、病床数を減らされる病院の利益確保・経営安定という、病院経営者の利害を露骨に反映させたものだ。こんなものを断じて許すわけにはいかない。

 

 昨年6月に改悪された「精神保健福祉法」にもとづき、「良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針」が策定されることとなり、そのための検討会(「精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針等に関する検討会」)が、厚生労働省内に設置された。そこで「病棟転換型居住系施設」構想が提起されたものの、同「検討会」内で決着を見なかったため、今年3月、新たに設置された「長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策に関わる検討会」において議論が継続され、7月1日にその「報告書」がまとめられた。

 

 この「報告書」は、「長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策の今後の方向性(長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策に係る検討会取りまとめ)」として、厚労省のホームページに掲載されている。そこでは「病棟転換型居住系施設」について、「精神障害者の地域生活支援や段階的な地域移行のための病院資源の活用」、「医療法人等として保有する敷地等の資源や、病床の適正化により将来的に不必要となった建物設備を、精神障害者の段階的な地域移行や地域生活支援のために活用すること」などが謳われている。

 

 また、「入院医療の必要性が低い精神障害者が、生活の場ではない病院という医療の場を居住の場としている状態は、精神障害者本人の権利擁護の観点、精神医療の適正化の観点から、本来のあるべき姿ではない。また、長期入院精神障害者の半数以上が65歳以上であることを踏まえると、こうした状態を一刻も早く改善することが必要である」とあり、この文書を読むだけでは、「病棟転換型居住系施設」の問題性がよく分からない。

 

 では、何が問題なのか。

 

 

 

「病棟転換型居住系施設」の問題点

 

 

 

 日本の精神科医療をめぐっては、病床の多さ、平均入院期間の長さ、患者に対する苛酷な処遇など、内外からの強い批判をくり返し浴びてきた。これに対して厚労省は2004年、「精神保健福祉施策の基本的方策」として、「入院医療中心から地域生活中心へ」をうたった「精神保健福祉施策の改革ビジョン」を打ち出し、「障害者自立支援法」には7万2000人の「退院計画」を盛り込んだ。

 

 しかし最近の統計によれば、日本の精神病床は34万床超で、その数は、人口当たりではOECD諸国平均の約4倍、実に世界の2割を占めるに至っている。入院患者数はおよそ32万人におよび、20万人が1年以上の長期入院、そのうち3割は10年以上の入院、そして年間2万人が病院で最期を迎えている。これらの数値は、過去20年間で数パーセントの微々たる変化しか示していない。厚労省が打ち出した「入院医療中心から地域生活中心へ」なるスローガンは、まったくのウソだということだ。「精神障害者」に対する隔離・収容・抹殺政策は何も変わっていない。

 

 この政策を引き続き維持した上で、アリバイ的な「改革」とアリバイ的な統計数値の変更によって、「精神障害者」をはじめとする内外からの強い批判をかわすこと。それが今回の構想の目的だ。

 

 「報告書」には、「検討会」で「病棟転換型居住系施設」に反対する立場から出された意見として、「治療関係という主従関係をベースとした場所に居住の場を作ると、権利侵害が起きる可能性が高い。権利侵害が起きる可能性は厳に回避すべき」、「障害者権利条約から考えて、居住施設は認めるべきではない」、「不必要となった建物設備を居住の場として使うのは、医療による精神障害者の抱え込みの構図である」などの意見が紹介されている。しかし、これらの意見が「報告書」の結論に影響を与えた痕跡はどこにもない。参考程度に書かれているだけだ。3月から行なわれた「検討会」は、25人のうち「精神障害者」は2名であり、構成員の大半は病院関係者や「有識者」、「専門家」によって占められていた。はじめから「結論ありき」の「検討会」なのであり、「精神障害者」の参加は、「当事者も含めて十分議論した結果だ」という演出のためのダシにすぎない。

 

 

 

病院経営者の利益を尊重

 

 

 
 精神病棟の一部の看板を「グループホーム」に書き換えただけで、「病床数が減った」、「地域移行が進んだ」と強弁し、あくまで「精神障害者」に対する事実上の長期入院、超長期入院体制を継続しよう、あくまで「精神障害者」隔離政策を維持しようというのである。

 

 一方、推進の立場からは、「病棟の転換を認めなければ(入院患者の)削減は進まない。地域移行の選択肢が拡がるのはいいことだ」(国立精神・神経医療研究センター総長・樋口)、「(病棟転換は)地域の受け皿作りを議論する中で具体的な方策の一つ」であり、「病院も地域社会と思っている」(厚労省精神・障害保健課課長)などの発言が報道されている。精神病院の敷地内を「終(つい)の棲家」とすることが、どうして「地域移行の選択肢」たりうるのか! 精神病院がどうして「地域社会」か! こんな詭弁、強弁を使ってまで、「病棟転換型居住系施設」を導入しようとしているのである。

 

 「報告書」は、こうした国の隔離・収容・抹殺政策に加えて、入院患者を減らし病床を削減することが病院経営にとって望ましくないという、病院経営者の利害に基づいて出されたものである。その背後には、日本の精神科病床の約九割が民間経営だという実態がある。

 

 これまでも、作りすぎた病床を減らさずに、いかに「活かす」かという構想が、出ては消えしていた(1990年代後半から日本精神科病院協会が主張していた「心のケアホーム」構想、2006年における、「地域生活への第一歩」として病院の敷地内に「退院支援施設」を導入しようとする動きなど)。「病棟転換型居住系施設」もまたしかり。精神病院から同じ敷地内にある施設に「退院」させれば、今度は入院患者を施設利用者としてそのまま囲っておくことができるというわけだ。入院患者を徹底的にしゃぶり尽くそうというのだ。病院の利益のために患者の人生を犠牲にすることを許してはならない。

 

 「病棟転換型居住系施設」構想を断じて許すな。「精神障害者」に対する隔離・収容・抹殺政策を打ち砕こう。宇都宮病院をはじめ、精神病院を糾弾し解体する闘いを強化しよう。一人ひとりの入院患者を地域に取り戻す闘い、入院患者との交流の取り組みを強化しよう。