「精神障害者」にも交通運賃割引をしろ!しないのは差別だ!対運輸局交渉とその後の取り組み報告

                                                                                  福岡・「障害者」解放をめざす会

 

 4月、「障害者差別解消法」が施行されましたが、「精神障害者」が公共交通運賃の割引適用対象から除外されている問題は、福岡においては何一つ進展しないままです。私たち福岡・「障害者」解放をめざす会(以下、「めざす会」)が、この問題に対する取り組みのスタートとして、九州運輸局(以下、運輸局)と民間交通事業者四者に対する申し入れ行動を行なってから、ちょうど1年です。あれから、運輸局とは二度、JR九州とは一度の交渉を持ったほか、日常の活動としては、公開学習会でこの問題をとり上げたり、ビラを配ったりして「会」の外にも訴えてきました。

 

 前回の報告から9ヵ月も経ってしまいましたので、問題の内容を整理しつつ、昨年11月に行なった運輸局との2回目の交渉について、まずは、報告します。

 

第2回 対運輸局交渉(2015年11月4日、福岡県合同庁舎新館にて)

 

〈5項目の「申入書」〉

 

 このときもまた、「申入書」を先方に送ってから交渉に挑みました。初回交渉の最後の場面で、運輸局に3つの質問を投げかけていたので、その内容を確認するとともに回答を改めて求め、追加で2点質問を盛り込みました。質問内容は次の通り。

 

 ①(運輸局が、)「差別になるかもしれない」あるいは「おかしい」と認識していること(「身体障害者」と「知的障害者」には適用されている公共交通運賃割引が、九州の多くの事業者において、「精神障害者」には適用されていない現状)について、今後、具体的にどう是正していくのか。

 

 ②「精神障害者」の運賃割引について記載のないバス事業者の約款について、どのような理由で、その「特段の事情」を認め、約款の認可を下しているのか。

 

 ③(運輸局が、)「心のバリアフリー」「バリアフリーな社会」を推進していくにあたり、「精神障害者」に関して、今後どのような取り組みを行なっていくのか。

 

(以下、追加分)

 ④すでに「精神障害者」への運賃割引を実施している九州の鉄道・バス事業者において、割引を行なうことによる減収は生じているのか。

 

 ⑤④で、生じているとすれば、どのくらいの事業者において、どの程度の減収が生じているのか。

 ④、⑤に関しては、すでに「精神障害者」への運賃割引を行なっている事業者での、割引の開始時期や、割引を行なったことによる運賃収入への影響にについて示すデータの提示を求めました。

 

〈運輸局の回答〉

 今回は、めざす会のメンバー3人に加えてもう1人、心強い助っ人(T氏)の参加がありました。メンバーの友人でもあり、ヘルパーをしつつ「精神障害者」の知人の移動支援に関わっており、運輸局の答弁に対して、自分の経験も織り交ぜながら積極的に質問・意見を出してくれました。交渉に当たっては、こちら4人に対し、運輸局側は5人。運輸局の回答は、大かたこちらが予想していたものでした。

 

 質問①については、「『精神障害者』に対しても割引を適用するよう、引き続き、事業者に理解と協力を求めていく」というもので、何の具体性も、工夫の跡もありません。「理解を求めていく努力はしているが、事業者の判断になる」ということを繰り返すばかりです。

 

 質問②については、「特段の事情」は、やはり「事業者の財政状況」との回答。前回の交渉時に、運輸局職員の一人が、「特段の事情」の中身を、「割引は本来、社会福祉施策として行なわれるべき」だという事業者の主張のことだと述べる場面があり、実際上のところがあいまいになっていたので、今回改めて回答を得て運輸局の認識を確認しました。そしてまた、「理解を求めていく努力はしているが、事業者の判断になる」ことや、「(規制緩和の一環として)バス事業者に対する認可は免許制から許可制に変更されたため、事業者に対する国の権限は弱くなっている」ことを挙げて、「理解と協力をお願いする」以上のことはできないという国の無責任な姿勢を、またしても露呈させました。

 

 追加質問については、「精神障害者」の運賃割引による事業者の収益への影響は計ることはできないとして、データの提示もありませんでした。結局のところ、割引を頑なに拒む事業者の言いなりでしかなく、「精神障害者」のおかれている厳しい状況を解消しようという姿勢はまったく見られません。それどころか、「(バス等を)利用する必要があれば、すでに使っているだろうとする論理もある」と、事業者の強弁する「割引を行なっても利用は増えず、減収につながる」という推測を運輸局自らが補強し、こちらを説得しようとしてきたのです。前回の交渉時に、「精神障害者」だけが割引の適用対象から外されていることについて、これを差別だと認識していると認めたにもかかわらず、です。

 

 運輸局は、「精神障害者」の窮状を把握しようともしません。事業者に対する説得材料として、「精神障害者」への割引適用の必要性について、運輸局自身が把握するための当事者ニーズの調査などはしないのかと問うと、「しません」ときっぱり。その理由は、「予算がありません」と。自らの「財政事情」により、何もできないのだというのです。また、「(運輸局)交通政策部消費者行政・情報課の仕事は、利用者の要望・苦情を取りまとめて担当者へ指示したり、情報を整理したりするだけ。分析するための資料は持たないし、調査もしない」とも。これにはさすがに、あいた口がふさがりませんでした。

 

 これに対して、今回初参加のT氏が鋭く批判しました。「『精神障害者』は、バスを使う時は目的があって使う。生活保護を受け、金銭の負担で通院や買い物に交通機関を使用できなければ、いよいよ引きこもりになる。等しく権利を保障することに差別があってはならない」「外出の際に介助が必要な人の場合、ヘルパーの交通費まで出さなければならず、負担はより深刻」「海外の状況なども含めて、調べればいろいろあるでしょう?」。 また、私たちがあらかじめ入手していた、ある団体により行なわれた当事者アンケートの報告書(標題:「精神障害者にも交通運賃の割引を」)を提示しました。アンケートは、家族会の組織により2014年11月から2015年2月末まで実施され、全国の「精神障害者」約5000人から回答を得てまとめられ、組織の発行する冊子の2015年6月号に掲載されています。内容としては、「精神障害者」の生活・経済状況や、福祉サービスの利用状況、就労状況、交通費に関する意見など、公共交通運賃割引の必要性を示すデータが収められています。この資料を作った組織は、毎年開催されている運輸局と事業者、「障害者」団体による協議に参加しているところでもあるので、運輸局がこの資料を持っていても不思議ではないのですが、どうやら存在を知らなかったようです。予算がどうこうではなく、調べる気がないのです。

 

 質問③については、運輸局がホームページ上で公開している内容のもので、小学生や事業者向けの「交通教室」の開催をこれまで行なってきたということと、国土交通省が一般向けに作成したリーフレット(「知的障害、発達障害、精神障害のある方とのコミュニケーションハンドブック」)を運輸局のホームページに公開しているということで、今後もこのような形で取り組んでいくとのことでした。しかし、自らの怠慢と差別性を棚に上げておいて、あたかも啓発の主体であるかのように振る舞うことに、誰が納得するのでしょうか。

 

 T氏からは、「障害者差別解消法」の施行にともなうアクションがあるのか、という質問がなされました。これに関しては、国土交通省が事業者向けの「対応指針」案を作り公表するので、それが出されてからの判断になるため、説明等は次回の交渉の議題に入ることになるということで、国の新たな動きを受けてから次回の交渉を持つことを確認し、第2回の交渉を終えました。

 

第3回対運輸局交渉は、7月6日

 

 今年1月になり、「障害者差別解消法」に関する国土交通省の動きを運輸局に電話で問い合わせました。そこでの話は、「『障害者差別解消法』は、『障害者』と『健常者』の間の不公平、差別事象をなくすためのものであって、異なる『障害』同士の格差を解消するものではないので、『法』施行後に、『精神障害者』の運賃割引に関する事業者への働きかけがこれまでと比べて変わることはない。これは九州運輸局だけの考えではなく、国土交通省の見解である」ということでした。「差別解消法」そのものへの批判は、また必要として、運輸局のこの説明にもすんなり納得するわけにはいきません。なぜなら、「精神障害者」の運賃割引の問題は、そもそもは、「『障害種』間格差」にではなく、「精神障害者」の移動の権利が奪われていることにあるからです。運輸局と交通事業者による、「精神障害者」差別の問題だからです。運輸局は、話の本質をすり替えてしまっているのです。

 

 国土交通省が事業者に対する「対応指針」を作成する過程で、「移動の権利」に対する意識の希薄さや、事業者に肩入れする姿勢が見抜かれて厳しく批判され、「パブリックコメント」において多数の指摘がなされ「修正」されたようです。おそらく、私たちが交渉時に感じている、九州運輸局の無責任さとやる気のなさと同様のものが、今回の「法」にも現れているのでしょう。

 

 次回の運輸局との交渉は、7月6日を予定しています。運輸局との建設的な議論はほとんど期待できませんが、また新しい仲間の参加を得ながら、当事者の生の声をぶつけながら、行政の怠慢をより明らかにし、運輸局の差別性を追及していかねばなりません。また、そこで得られたものを力に、仲間を増やす活動を強化し、「精神障害者」をとりまくあらゆる差別を糾弾する闘いを推進していきたいと思います。