「精神障害者」に対する交通運賃割引の適用除外を許さない! 西鉄の割引制度導入をかちとる

                             福岡・「障害者」解放をめざす会

2017年4月から西鉄が割引開始

 

 私たち「福岡・『障害者』解放をめざす会」(以下、「福岡・めざす会」)は、約3年半前に活動を始めました。主な活動の柱として、講演会や学習会、介護者募集などを中心とした地域活動を行なってきました。そうした中で、「福岡・めざす会」に参加する「精神障害者」の仲間から、「保健福祉手帳をとったものの、『身体障害者』や『知的障害者』には適用されている公共交通機関の運賃割引が、『精神障害者』にはほとんど適用されていない。何とかしてほしい」という意見が出されました。内部の討論や学習会などを通じて、これは明らかに「精神障害者」差別であること、この差別を撤廃させる取り組みを「福岡・めざす会」のもう一つの柱にすえていくことを確認し、約2年半前から、該当する行政および事業者に対する行動を続けてきました。

 

 こうした中、今年2月に入り、西日本鉄道(以下、西鉄)が、2017年4月から「精神障害者」に対する交通運賃割引制度を導入することが明らかになりました。西鉄というのは、「大手私鉄」と呼ばれる全国15社の一角を占め、福岡に基盤を置く九州最大手の私鉄です。今回の成果は、もちろん「福岡・めざす会」だけの力ではなく、この問題に取り組んできた福岡県下の多くの「障害者」団体の力によるものであることは言うまでもないことですが、「福岡・めざす会」としても、少人数ながら行政や事業者との交渉を積み重ねてきたのであり、それが一つの大きな実を結んだと言っても、決して過言ではないと思っています。以下に、取り組みの経過を報告します。

 

 「福岡・めざす会」は、2015年6月26日、九州運輸局と西鉄に対して、「精神障害者」に対する交通運賃割引の適用を求める申し入れを行ないました。さらに、JR九州やJR九州バス、そして博多駅に乗り入れるJR西日本・九州支社に対しても、同様の申し入れを行なっていきました。

 

 JR九州に関しては、1回目の交渉において、「精神障害者」への割引どころか、「障害者」割引の制度そのものに対して否定的な態度で、それこそが「障害者」差別であるという指摘に対しても、まったく耳を貸そうとせず、今後の交渉にも応じないという見苦しい対応でした。JR西日本・九州支社は、「申し入れの件については大阪本社に伝える」ことは約束したのですが、「九州支社では対応できない」、「JRはグループなので、JR西日本単独では対応できない」という対応でした。西鉄に関しては、「後日、文書で回答を送る」ということでしたが、3ヵ月も経った2015年9月になってようやく届いたものは、回答らしい回答ではなく、「経営上の問題から、現時点において、『精神障害者』への割引は考えていない」というものでした。

 

これまでの取り組みの経過

 

 こういう状況の中、「福岡・めざす会」は、同年7月28日、九州運輸局との第1回目の交渉に臨みました。まず、私たちは、「九州管内で、どの程度の事業者が『精神障害者』への割引を行なっているのか」、「その現状を、九州運輸局としてどう認識しているのか」について問いただしました。運輸局側からは、「九州の交通事業者の約53パーセントが制度を導入しているが、大分、福岡ではまったく導入されていない」という回答があり、それに対しても、「人口が最も多く、『精神障害者』の数もその利用頻度も最も多いであろう福岡県で制度が導入されていなければ、ほとんど意味がない」、「福岡県最大手の西鉄が制度を導入していないことが、県下の他の事業者にも大きく影響を与えている。運輸局は、なぜこのような状態を放置するのか」、「『精神障害者』に対する差別ではないのか」と厳しく追及していきました。これに対して、運輸局側は、「西鉄には(制度導入を)、お願いする立場でしかない」(要するに、強く求めることはしない)という回答に終始したのですが、担当課長から「(制度導入をしないのは、)差別にあたるかもしれない」との言質をとったこともあり、第1回目の交渉を終えました。

 

 第2回目の運輸局交渉は、同年11月4日に、行ないました。内容としては、運輸局のやる気のない姿勢を追及するものでした。具体的には、「中国や四国の運輸局管内では、9割を超える事業者が『精神障害者』への割引制度を導入しているにもかかわらず、九州管内でまだ5割程度というのは、九州運輸局の怠慢の証拠ではないのか」、「西鉄は制度導入を拒否する理由に『経営上の問題』をあげているが、『精神障害者』に割引を適用すると、いったいどのような『経営上の問題』が生ずるのか、具体的に説明してもらいたい」、「説明できないのなら、そんな理不尽な西鉄の言い訳を『ハイ、分かりました』と認めている運輸局の責任はどうなるのか」、「西鉄などの事業者に対して、運輸局は『お願いする立場でしかない』と言うが、そんな姿勢でいいのか。問われているのは、運輸局の差別に対する姿勢だ」と迫っていきました。さらに、「精神障害者」の仲間が、「割引制度がないために、やりたいことを諦めざるを得ないことがどれほどあったか」と、実態をこと細かく説明し突きつけていきました。

 

 しかし、運輸局は、「昔のような行政指導は、できない」という弁解を譲らず、話は、平行線に終わりました。私たちが「この問題は、『障害者権利条約』や『差別解消法』に抵触する」と追及しても、「『差別解消法』との関係は、来年度に具体的な指針が本省から下りてくるまでは、何も分からない」ということをくり返すばかりでした。結局、2016年2月をめどに第3回目の交渉の場をもつことを確認して、交渉を終えました。

 

 第3回目の交渉は、2016年7月4日に、行ないました。2月に行う予定だったのですが、人事異動で運輸局の担当者が代わったこともあって、延期になったのです。ところが、交渉を始める前に、私たちがまず、「(制度導入をしないのは、)差別にあたるかもしれない」という前任者の認識を再度確認しようとしたところ、新しい担当課長が、「あれは、個人的な発言だ」と無責任なことを言い出したため、交渉は、本題に入る前に、入り口で紛糾することとなりました。運輸局を代表する立場で交渉を担当した役人の公式の発言が、「個人的な発言」で片づけられるはずがありません。あまりに無責任で、差別に居直る役人の姿勢に、私たちの怒りが爆発しました。4月1日に施行された「差別解消法」について、担当課長が、「行政機関や民間企業には適用されるが、『障害者』間の問題には適用されない」という支離滅裂な解釈を披露したことに対しても、「『精神障害者』だけは、差別していいと言いたいのか」と追及していきました。

 

今後の取り組みの方向性と提案

 

 結局、こうしたやり取りに時間を取られて、具体的な話はほとんどできず仕舞いでしたが、しかし、「精神障害者」差別は絶対に許さない、割引制度導入まで絶対に引かないという私たちの姿勢は、十分に示すことができたと思います。

 

 こうした中、今年に入り、2月中旬に、西鉄が「精神障害者」に対する割引制度を導入するという情報が入りました。3月10日に、運輸局に確認したところ、「2017年4月1日より、正式に導入する」とのことでした。私たち「福岡・めざす会」の約二年半に及ぶ取り組みも、決して無駄ではなかったと実感しているところです。

 

 九州の私鉄最大手である西鉄の割引制度導入をかちとったことの意味は、極めて大きいと言えます。これまで、他の交通機関の事業者たちは、「西鉄ですらやらないものを、どうして自社だけがやらねばならないのか」と言い続けてきたのですが、その逃げ口上がこれからは使えなくなるからです。西鉄を突破口に、「福岡・めざす会」は、福岡―九州における割引制度のさらなる拡大に向けて、取り組みを進めていくつもりです。

 

 その上で、今後の最大の課題が、JRであることは言うまでもありません。福岡で暮らす「精神障害者」が生きていくのに不可欠な「移動の自由」は、福岡県内や九州圏内にとどまるわけはなく、全国にまで及ばなければなりません。そして、その場合、山陽新幹線、東海道新幹線の利用など、JRとの関りが必要・不可欠になるからです。

 

 しかし、JRに関して言えば、一地方の一団体が交渉を行なっても、到底無理な話です。すでに報告したように、私たちが交渉したJR西日本・九州支社の対応は、「JRはグループなので、JR西日本単独では対応できない」というものでしたが、このままでは、その逃げ口上が延々と続けられることになります。何よりJRの問題は、全国の「精神障害者」の共通の課題です。

 

そこで、全「障」共の皆さんに、次のことを提案したいと思います。

 1、全「障」共に参加する諸団体(とりわけJRの本社・支社の所在地近辺で活動する団体)が、地元のJRに対して、「精神障害者」への割引制度導入を求める取り組みを行なってほしい。

 

 1、全「障」共として、JRの監督官庁である国土交通省との中央交渉の場をもってほしい。

 

 以上を提案・要望し、「福岡・めざす会」からの報告とさせていただきます。「障害者」解放に向けて、ともに闘いぬきましょう。